遺言執行の流れ

おはようございます。行政書士の城野です。

本日は遺言執行の流れについて研修を受けましたので、そちらを備忘のため残しておきます。

遺言書において遺言執行者として指定された場合

公正証書遺言のときは、直ちに執行に着手します。

自筆証書遺言であっても遺言書保管法の下で保管されている場合は、直ちに執行に着手します。

それ以外の自筆証書遺言のときは家庭裁判所で遺言書検認の手続きを取ります。

遺言の有効性の確認

①外形上、形式的要件の具備を確認

自筆証書遺言であれば以下の内容が備わっているかを確認します。

  • 全文自書
  • 署名押印
  • 日付
  • 訂正された場合の訂正箇所の特定、署名、印

全文自筆のところは、改正民法では目録につき署名押印は必要ですが、目録自体は自書しないでパソコン等で作成したり通帳のコピーや登記事項証明書等をそのまま目録として添付したりすることも可能になっております。

②実質的要件である遺言能力備わっていたか調査して確認

裁判例のいう「遺言事項を具体的に決定し、その法律効果を弁識するに必要な判断能力たる意思能力」が備わっていたかを確認します。

相続人等の利害関係者から被相続人の意思能力について疑問があると主張されたときは、主治医、ケママネジャー・ヘルパー等から生前の様を聴取し、必要に応じてカルテ・介護日誌等を検討します。

意思能力を欠いて遺言が無効となるかどうかは、最終的には裁判所の判断によって決定します。

無効の主張がされた場合には、遺言無効確認訴訟の提起を促し、提起された場合には相続人等の利害関係者には訴訟告知をしておき、遺言執行を留保することになります。

無効判決が確定すると、遺言執行が無効となり、遺言執行者も場合により損害賠償請求を受けるおそれもあります。

遺言の意思能力については、遺言内容とも関連しており、例えば妻に全部相続させるという単純な内容か、複雑な内容かによってその要求される程度も異なっているといえます。

遺言執行者は、明らかに無効であると心証をとったときに限り遺言の執行を中止し、それ以外の場合はまずは執行することが適切と考えられま
す。というのは、改正民法では、遺言に反する相続人の行為について対抗要件主義を採用していますので、執行が遅れたために善意の第三者が
取得し、遺言が実現できないとなると責任が問われるおそれがあるから
です。

意思能力に疑義がある場合はやはり紛争になる可能性が高いです。

そのようなケースでは弁護士さんをご紹介させていただきます。

遺言文言の解釈


遺言の解釈については、

「遺言の文言を形式的に判断するだけではなく、遺言者の真意を探求すべきものであり、遺言が多数の条項からなる場合にそのうちの特定の条項を解釈するにあたっても、単に遺言の中から当該条項のみを他から切り離して抽出しその文言を形式的に解釈するだけでは十分でなく、遺言の全記載との関連、遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などを考慮して遺言者の真意を探求し当該条項の趣旨を確定すべきものであると解するのが相当である。」

とする判例(最判昭58・3・18)があります。

形式的でなく遺言者の真意がどこにあったかを考えなければなりません。

例えば自筆証書遺言等に良くある「家を継ぐ者に自宅と家業に関する一切の権利を相続させる」との遺言は、「家を継ぐ」という条件が具体的にはどのような条件を指すのか解釈に困ります。

このときは、遺言執行者が先ず遺言の解釈を示し、それを相続人らに伝えて異議があれば調整し、それでも解消しない場合には、相続人・受遺者等に法的措置を促して遺言無効と同様に裁判で決着をつけることになります。

そもそもの遺言の書き方を誰にとってもわかりやすく書くことを心掛けるべきですね。

そういう意味でも、遺言を作成する段階で第三者に見てもらうことは有意義かと思います。

就職通知

基本的な流れ

公正証書遺言等の遺言の写しを同封して、以下の事を通知します。

  • 遺言執行者に就職したこと
  • 併せて相続人は遺言の対象となっている相続財産を勝手に処分することはできないこと
  • 遺言、遺言執行に関する意見を求める
就職通知と対抗要件具備は速やかに!

後れると解任事由や損害賠償の責任を追及されるおそれがあります。

特に遺言執行者が相続人である場合には、遅滞すると、損害賠償や遺言を隠匿したもの(民法891条5号)として相続欠格事由になるおそれもあります。

改正民法前は、遺言の内容に反する行為を相続人がした場合には、相続人の行為は無効でしたが、改正民法では善意の第三者に対抗できないとされました。

また、改正民法では遺言執行者に遺贈又は特定財産承継遺言について対抗要件を備えるための必要な行為をする権限を付与し(民法1014条2項)、対抗要件を備えないと善意に第三者に対抗できない(民法899条の2、1013条2項)としているので、就職通知を発送する前に、遺贈又は特定財産承継遺言について登記等の対抗要件を備えておきます。

この対抗要件の具備は、改正民法の前後に関係なく適用されます。大半の公正証書遺言では、「特定の不動産を特定の相続人に相続させる」遺言となっているので、遺言執行者は速やかに登記をすることになります。

不動産に関して登記する前に、何も知らない第三者がその不動産を買ってしまった場合に、その第三者には対抗できないということですね。相続人さんからすると

「執行者の人、なんで早く登記しておかなかったの。あなたのせいでしょ!損害を賠償して!」

って感じでしょうか・・・

関係者からの事情聴取

相続人への通知のほかに、受遺者に通知して遺贈を受けるかどうかを確認します。

財産目録の作成

遺言執行者は遅滞なく、相続財産の目録を作成して、相続人に交付します(民法1011条)。

遺留分侵害額請求がされた場合

今回の民法改正により遺留分制度が全面的に見直しとなり、遺留分侵害額請求は金銭請求となりました(民法1046条1項)。

遺言執行費用及び報酬の受領

遺言執行の費用と報酬は相続人から受け取ることができます(民法1021条、民法1018条2項)。

実務的には、預貯金の解約・払戻しや相続財産換価金の分配を終える前に相続人・受遺者らと協議し、合意を得て遺言執行者の費用・報酬を受領します。

報酬は、遺言に基準があればそれに従い、ないときは相続人・受遺者らと士業の参考となる基準による案を示すなどして協議をして定めます。

合意できないときは、家庭裁判所に遺言執行者の報酬付与の申立てをして、審判で定めます。

なお、遺言で基準が定められていても、相続人・受遺者らに事前に説明することなく、無断で一方的に差し引いた場合には解任事由となりおそれがあります。また、報酬は、委任が準用されていますので、遺言執行者はすべての事務を完了した後に請求するのが原則です。

相続人への報告

遺言執行者には委任に関する規定(民法644条以下)が準用されるので、相続人らに対し遺言執行の内容及び結果を執行完了報告書等として報告します。

遺言執行者の辞任又は就職辞退

遺言で指定された遺言執行者は、遺言の効力が生じた後、遺言執行者に就職するかしないかを自由に決めることができます。

しかし、いったん就職を承諾した後は、家庭裁判所に対して辞任許可申立をし、許可を得て辞任することになります。辞任をする場合には、正当事由が必要です(民法1019条2項)。正当事由の多くは病気や事故による障害等です。

相続人間で紛争が生じ遺言執行が困難となった場合も正当事由に該当するかは難しい問題ですが、辞任する場合には、遺言執行者が指定されている場合には民法第1013条による相続人の処分制限の効力が働くので、それを維持するために、少なくとも後任の遺言執行者が選任されてから、辞任するようにします。

相続の事案って争いばかり気にしている

相続周辺の勉強をしていると、本当に

「紛争防止」

「紛争が起きたら」

と紛争を気にしていることがありありとわかります。それだけ紛争になることが多いということでしょうか。

やはり私は、きちんとした遺言を残し、争続を回避するように推し進めたいと思います。